装置

死・マンガ表現・ツイッター

コロンバス旅行記20:歯編

起きてしばらくしたらWiFiが繋がらなくなり、スポットが一つもヒットしなくなったので何かと思ったら局所的な停電のようだった。朝は電気つけないので気づくのに時間がかかった。タイ人同居人に聞くと"explosion"が起こったらしい。e-explosion!? 剣呑な……ってなったが、別にボカーンと派手なことが起こったのではなくて電線のどっかがポンッとなった感じとのことだった。本当はもっとちゃんとした英語で説明されたがなんか雰囲気しか分からなかった。電気技術的にはexplosionには剣呑でない意味があるのかもしれない。

家を出ようとしたらメールが来て今日の午前中と明日の午後はリーディングルームが閉まるとのことだった。そういえば先週スーザンが既に教えてくれていた気がするがよく覚えていない。どっちにしろやることないので大学図書館で論文読む。

口の中に砂利みたいな感触があって、奥歯が欠けていることに気づく。寝ている間に食いしばって詰め物が一部剥がれ落ちたようだ。外国では起こってほしくないイベントだ。そういえば昨晩は鬱っぽくなってたのもあってか悪夢を見た気がする。しかも家族が出てくるやつだ。家族の夢を見ると自分が丸ごとフロイトの枠組みの中に囚われているような気がしてかなりムカつく。フロイトがいなければ家族の夢は単に家族の夢だったのに、20世紀以降はいちいち実存的に悩まなくてはならなくなってしまった。こうやって否認すればするほど傍目にはフロイト的になっていくという陰湿な構造も嫌だ。そりゃ歯ぎしりもしたくなりますよ。どうにかならんのかねこれ。

チポトレに行こうとしたらタバコを持ったおっさんに絡まれた。何事か早口で捲し立てられている。全然聞き取れない。ガンにかかった女性がいるから寄付が要るとかなんとか。まぁこういう手合いが何を求めているかなんて英語が分からなくても分かるが、かといって会話の打ち切り方なんて分からない。いや、仮に日本語だったとして打ち切り方なんてわかるのだろうか。最初から無視する以外に選択肢はなかったのだ。格ゲーの強いムーブみたいだ。面倒くなったので2ドル渡したら"god bless you"と言って去っていった。どうせブルシットなんだから貰ったらさっさと行けばいいのに律儀に物語を貫徹していてちょっと感心した。こんなもんどうせあげる側も本気じゃ信じちゃいなくて面倒だから金をあげて追っ払ってるだけだし、おっさんだってそのこともわかっているはずだ。いや、だからこそフィクションが保たれなければならないのか?

午後の短時間で急いでコミックスを読む。1902年の春くらいまで読んだが、やはりこの時期はスウィナートンがハースト紙を完全にリードしているように見える。リードというのは表現が上手いというだけでなく、他のアーティストがスウィナートンの表現をしばらく経ってから模倣している例が散見されるということだ。オッパーやケンブルといった年長者たちが雑誌的なスタイルから徐々にスウィナートンぽい回転のスピード線や動物が絡む破壊とかを取り入れていく様子は、面白いと同時にどこか痛々しい。スウィナートンは日本ではオッパー以上に知られていないし、アメリカでも作品集などは出ていないが、年代を考えるとマッケイよりも才能を感じさせる瞬間がある。知名度が低いのはおそらく結核で長らく引っ込んでしまったからだろう。

ウェクスナー・センターというアート系の施設が構内にあって、そこの売店には本やレコードなどカルチャーなものがたくさん売っている。コミックスを買うつもりで入っていったら奥の方にブッダマシーンが並んでいるのを発見。なにかビビッとくるものを感じたのと、メルカリを見たら買った値段で売れることがわかったので購入。あとタッシェン版のリトルニモ全集の1910年以降の分冊が80ドルで売っていて悩み中。タッシェン版で一番欲しいのは編者のマッケイ伝記の冊子なのだが、あれだけ売ってくれないかなー。