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死・マンガ表現・ツイッター

メッセージの量と蓄積

ツイッターで言ったことの掘り下げです。

 

スーパーやコンビニなどで子供がゴネているのをよくよく見てみると、子供は同じ単語や文を何度も何度も 繰り返していることがわかります。そして繰り返すごとに徐々に声量が大きくなったり、金切り声になっていったりして、子供が自分の声をなるべく耳障りなものにしようと努力していることが伺えます。

思うに、子供はメッセージを質ではなく、量として認識しているのではないでしょうか。大人や友達が自分の言うことを聞いてくれないのは、伝えようとしているメッセージの内容や伝え方が悪いのではなく、相手に十分な量が届いていないからだと捉えている、と考えてみてはどうか。だから子供はゴネるための言葉を別のものに変えたり、交渉をしたりするよりも、メッセージを発する回数を増やしたり、声をなるべく相手の意識に届くような、要するに煩くなるようなものにして、相手のメッセージ貯蔵庫のような場所に可能な限り自分の意思を送り届けようとします。一定量のメッセージが貯まれば、相手は自分の言うことを聞いてくれる、というわけです。

こうした認識は、取りも直さず、言葉が自分の考えや伝えたいことを、余すことなく透明に表現するものであるという思想を前提としています。これは言葉というよりも動物の鳴き声に近いものです。概念を伝達すると言うよりは、相手に特定の情動を起こさせることを目的としており、例えば犬が威嚇するときの鳴き声は相手に恐怖の情動を起こさせることが目的であり、相手がなるべく恐怖してくれるように犬は何度も、より大きく鳴こうとします。

しかし大人は、ある種の理想的な大人は、鳴き声ではなく言葉の世界(カッコつけて言うなら象徴界)の中で生きているので、子供の鳴き声によっては基本的には動かされません。大人を動かすには、自分が提案していることに相手が同意することによっていかなるメリットがあるかを様々な言葉を用いて説明し、説得しなければなりません。説得がうまくいかない場合は、表現や提示する内容を変化させ、違うアプローチを試していく必要があります。子供はこのことを理解していないので、そしてしばしば大人も子供のことを理解していないので、スーパーでは今日もお菓子を買わない理由を「説明」する親と、「お菓子買って」をひたすら連呼する子供の対決が繰り広げられます。

さて、そんなことを考えながら私はゴーゴーカレーでロースカツ(エコノミークラス)を食べていたのですが、店内BGMで流れている曲(誰の何という曲かは知らない)が「君が好きだよ~何万回でも言うよ~」みたいなことを歌っていました。生活していると、このように思考していることと外界からやってくる情報とが奇妙にマッチする瞬間がたびたび訪れます。つまりこの歌においても、メッセージは量として捉えられていて(自分は今後常にオマエに好きという用意を保ちつづけるぞ、そういう覚悟でやっていくぞ、というような意味もあるかもしれませんが)、好きという感情は表現を変えるよりは回数で攻めていくような戦略を取っていくぞ俺は、ということだと私には聞こえました。

実際、音楽は量で攻めるべき側面もあります。広告代理店は自分たちが推そうとする音楽を様々なメディアで何度も流し、聴取者に再認させることで「この曲聞いたことあるな」と感じさせようとします(アドルノか誰かが、こういうのをプラッキングと呼ぶ、と言っていた気がする)。ゲーム中で何度も聞く曲(RPGのフィールドや通常戦闘、格ゲーの持ちキャラのステージBGMなど)は、別に傑作でも何でもなくても記憶に残り続けたりします。

こうしたことはおそらく音楽に限らず、メッセージは常にある程度は量の側面を持っていて、ある程度は子供や動物の世界を保持し続けるのではないでしょうか。何度も我々の前に登場することによっていつの間にか我々にとって日常になってしまった売春斡旋広告トラックや、複数コマ・複数ページに同じ登場人物を何度も描くことで物語を展開するマンガ、日々繰り返される挨拶、その他諸々…には、良いものと悪いものが混在しており、それらは繰り返される中でメッセージの内容を変化させているのではなく、ただ私達の中に量として蓄積されることで、そうしたメッセージに対する私達の態度を変化させていきます。大人は結局子供にお菓子を買ってあげることもあります。

蓄積されるものとしてのメッセージの量的な次元は、それ自体としては子供や動物などの野蛮な?領域に属するものと言えるのでしょうが、見方を変えれば私達がどこまで行ってもある程度子供であり、動物であることを示唆しています。言葉の鳴き声的な側面を低俗と切り捨てず、反復される下らない言葉に目を向け、自分たちに関わるものとして考えていくことにも、何らかの価値があるように思われます。無理矢理っぽいけどキレイに終わったかな?