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コロンバス旅行記9:ブリトー編

朝シリアルに牛乳かけてたら同居人が「日本でもそういうの食べてたの」と聞かれたので「日本では朝起きない」と答えた。日本にいた頃からは想像できない健康的時間サイクルを生きている。最近は帰ったら即眠くなり寝てしまうのでこの日記は翌朝書いているが、一晩寝てしまうと出来事の細部が飛んでしまう。

オッパーが『パック』に描いた表表紙と裏表紙のカートゥーンがたくさん集められたフォルダをひたすら見る。『パック』は別に日本でも読めるからわざわざここでやる意味はない気もするが、コロンバスにいるからやる気になっているというのもある。予めオッパーのものだけ集めてある資料という便利さを考えればまぁわざわざ来る意味もあるかもしれない。通して見ると年代ごとに作風の違いが見えてくる。80年代半ば頃は「〜の未来」みたいな作品が多い。イタリア人オルガン弾きとか路上電車の増え続ける広告とか、当時の悩ましい事柄がこのまま時間を経てエスカレートしていったらどうなるかというエクストリームな未来を描くことで諷刺するという手法だ。路上電車で言うと、将来はもはや乗客が広告を身につけることが義務化されるぞ、という感じ。90年代に入ると絵柄も変わっていき、特定の人物よりは企業とか報道とかの抽象的人格を描くという路線が固まってくる。あとコマ割りコミックスが見られるようになる。雑誌が新聞コミックスを用意していたことがわかる。

今日はチポトレに挑戦だ。テクスメクスのファストフードは前から行ってみたかったのだが、サブウェイみたいにいろいろ指示しなきゃいけない上にサブウェイみたいにプリセットが決まってるわけではなくフォーマットから中身から全部自分で決めるので難易度高そうで敬遠していた。ままよ!という気持ちで入る。直感的にやっていく。ブリトーに牛肉とブラックビーン、白米、チーズとレタス。豆と米をトルティーヤで巻くってどんだけ炭水化物なんだよと思うけど周りもだいたいそんな感じなのでそういうもんなんだろう。サウスパークのゲームで主人公がモーガン・フリーマンから貰ったブリトーを食べるとあまりに強烈な屁が出たせいで時空が歪むという演出があったが、確かに屁は出そう。サービスしてくれたスタッフがブリトー巻くの失敗してしまったのでトルティーヤをもう一枚おまけして2枚包みにしてくれた。ラッキー。飲み物メニューに「ソーダ」とだけ書いてあったのでソーダっていうのがあるのかなと思い「ソーダください」と言ったらレジ奥にコーラとかスプライトとか並んでて、総称してソーダってことだったらしく、そのへんよく分からずにソーダ連呼してたら瓶コーラが出てきた。恥ずいのですぐに店を出たら栓抜きがなくてコーラ飲めないことに気づく。グローサリーでペットボトルのチェリーコークを買う。

ブリトーとは言うが日本で見る巻き寿司サイズのやつとは全然違い、ロールケーキくらいある。俺がアメリカに求めてたのはこういうファストフードだよ、日本と変わらないビッグマックではなくて!食べきれないので残りは夕飯にする。

コロンバス旅行記8:カフェインアジア編

気づいたら一週間経った。毎日同じ時間にライブラリ行って同じ時間に帰る生活。引っ越した後とかもそうだけど、新しい場所に行って行動ルーチンを確立していく過程が好きだ。よく考えたら今年は日本で引っ越しした上にコロンバスにも来て、環境を切り替え続けている。新しいシリアルはあんま美味しくなかった。

新しいチャレンジとしてスターバックスでコーヒーを頼んでみる。頼んだ。コーヒー頼むだけなら全然簡単。ショートを頼んだけど日本のトールくらいある。日本にいたころは毎日豆挽いて自分で入れてたが、シェアハウスのコーヒーメーカーはずっと使われてない感じがして不気味なので触りたくない。アメリカに来てからコーヒー飲んでないので一週間ぶりのカフェインだ。そのせいかなんかテンション上がってしまい、資料がバシバシ読める。

アウトコールトの伝記ファイルのなかに、何故かというほどでもないがジョージ・ラックスのカートゥーンしか入ってないフォルダがいくつかあった。2人の関係は言わずもがなだが(言わずもがなな日本語話者が何人いるのか知らんけど)、あくまでアウトコールトのファイルなのに丁寧すぎないか……と思っていると、ピューリッツァーが所有していたセントルイスの新聞が1898年にアウトコールトとラックス両者の作品を同時にコミック付録に載せていたことがわかった。アウトコールトは96年にハーストに引き抜かれて、いなくなった彼の代わりにラックスが「イエロー・キッド」を描くようになったという話だったが、98年の紙面だと(件のセントルイスの新聞はコミック付録を始めるのが97年あたりだったと思うが)普通にアウトコールトの「イエロー・キッド」がピューリッツァーの新聞に載っていた。ラックスの方は自分が書き継いだあとの「イエロー・キッド」に登場させたオリキャラを「イエロー・キッド」から独立させた別の作品を描いていた。しかも米西戦争における米政府への露骨な風刺漫画だった。いわゆるイエロージャーナリズムは米西戦争を煽りまくった存在ということになっていたはずだが、やっぱり実物を見ておくもんである。

請求した資料をよく見たら、まだ読んでないオッパーのファイルがあったことに気づく。伝記ファイルの中でも特大サイズのものが別個に用意されていたのだ。どれも大変貴重な古新聞である。ミュージカル版「ハッピー・フーリガン」の一面広告とか、オッパーが書いたカランダッシュについてのエッセイとか。カフェインのテンションも相まってスタッフの人に「ここって最高な場所ですね!」と言ったら笑っていた。

アメリカのマクドナルドはデカくない。なら他のバーガーショップはどうか。というわけでウェンディーズへ。ウェンディーズスターバックスネームみたいに注文時に符丁として名前を聞かれる。咄嗟にYUNと答える。なんとなくストリートファイター3が思い浮かんだからだが、なんで俺は中国人のふりをしたのだろう。日本人があまりに少ないので、中国人ということにすれば居場所が得られると思ったのかもしれない。そしてウェンディーズは全然デカくなかった。そのあとスターバックスに行ったら俺の前に並んでいた人がどう見ても日本人な名前で注文していて、しかも俺の本名と同じスペルだった。なんだか恥じ入ってしまった。

グローサリーにはインスタント麺がない。そのこと気づくと意味もなく恋しくなってしまったので、大通りで見かけたオリエンタルマーケットに行ってみる。中に入ると中国系の商品が並んでいて(何故か豆類だけは日本製品で占められていた)、レジのおっさんは古そうなPCでソリティアをしていた。そんなステレオタイプでええんか。辛ラーメンとブルダック麺、出前一丁を発見。サッポロ一番もあったらしいが売り切れていた。それぞれ一袋1ドルくらい。他のグローサリーの商品と比べると東アジア人って食費節約なのかもしれない。ともかく袋麺を買って帰る。辛ラーメンを食べてみたら日本で手に入るものよりなんとなく辛さがマイルドな気がした。

コロンバス旅行記7:デカくない編

ライブラリの利用時間は最大で1日4時間。分かっていたことだが大したことはできない。部屋に戻ると途端にスイッチが切れて作業できなくなるたちなので別の作業場所を見つけないといけないが、シャイ過ぎてちょっとマクドナルドに入るのも一苦労という。

マクドナルドといえば日本にいた頃はアメリカのファストフードは全部めちゃでかいと思いこんでいて、クォーターパウンダーセットなんか頼めばそれで1日腹が保つと思っていたが、実際来てみると日本と全然変わらない。円安を鑑みると経済的には縮んでいるとすら言える。クォーターパウンダー久しぶりに食べたんで日本でのサイズ感を忘れているけど。まぁもしかしたら州単位とかで事情が異なるのかもしれない。

オッパーの伝記的資料とりあえず一周。同時代の言説やオッパー自身がカートゥーン作家(コミック作家ではなく)としてのオッパーをどう位置づけていたのかなんとなくわかってきた。暫定的な整理だが、先行世代のネストやダヴェンポートが真実の告発という理念において活動していたのに対し、オッパーは影響力の行使を重視していたようだ。前者は特定個人をカリカチュアライズすることでその人物の隠された真実を暴き出す。だからしばしば攻撃的だ。対して後者はコメディであり、だからこそ教育の程度にかかわらず広い範囲にリーチすることができる。影響力という観点から見るなら、まず興味をもたせることから始めなければならないのだから、先行世代のように攻撃的な態度では損である、みたいなことがインタビューで言われている。なんか今っぽい話だ。彼はどうやら特定個人にはあまり興味がなく、トラストとか企業とかの抽象的存在をキャラ化しようとしていた。そうしたキャラクター(というよりコンセプチュアライゼーション?)はシステムの動きとか利害関心といった純粋な力の表象であり、一般市民というこれまた抽象的存在をスラップスティックなかたちで玩弄する。玩弄する動きはナンセンスで、特定の誰かの意志というよりは機械的システムのように振る舞う。ガニングや三輪さんが言うところの狂った機械の論理だ。オッパーもまたある種の真実を提示するのだが、それは個人の秘密ではなく社会システムが狂ってしまっているということ自体だ。現実の出来事ではなく、トラストがどういう存在なのかということについての戯画を手を変え品を変え反復し続ける。晩年の発言だが、オッパーはカートゥーンにとって特定個人を描くことは実は上策ではないと考えていたようだ。時の人は時とともに現れては消えていくが、抽象概念は不変であり、むしろそこにこそ真実があるという考え方になる。カリカチュア・カントリー云々という1902年だったかのエッセイも、こうした風刺画的な側面から見ると立体的になる気がする。

明日からはアウトコールトのファイルに取り掛かるが、見た感じオッパーよりボリューミーだ。アウトコールトはオッパーと同年代(いっこ上)だが、どうも考え方としてはネストのようなオッパーより上の世代に近い気がする。彼は自分のキャラクターにモデルがいることを強調したがる。イエローキッドは自分がロウアーイーストサイドで会った子どもだとか、バスターとメアリーは自分の子どもがモデルだとか。現実を参照することでリアリティを、という発想なのだろう。同時に子どもたちの姿にはある種の普遍的概念が体現されているとも言っており、そう考える点ではオッパーと似てなくもないが、あくまで現実の人間から出発する点で決定的に異なる。

シリアルがなくなったので買いに行ったらファミリーサイズのものしかなかった。普通サイズが売り切れということではなく最初からファミリーサイズしかない商品ばっかということ。迷ってたら学生らしき人が決め打ちにしているらしいシリアルをガッと掴んで去っていったので、俺も同じやつを試してみることにする。

冷凍ピザを夕飯にしようと思って開けてみたら想像の2倍くらい大きかった。半分に切って焼く。いっしょにつまもうと思ったドリトスも日本の3倍くらいのバッグしかなかった。クォーターパウンダーは普通だったのに。

ピザはオーブンで焼けと書いてあるがオーブンの使い方がよくわからない。シットコムとかによく出てくるコンロの下についてるデカいアレだ。やきもきしてたら同居人が帰ってきた。言ってなかったけどこの家には3人住んでて、俺とタイ人ともうひとりだ。そのもうひとりである。もうひとり氏とはこれまで挨拶くらいで喋る機会がなかったのだが、今日はオーブンの使い方をテキパキ教えてくれた。あとすごい量のミルクをストックしている。なんとなく人となりが掴めて少し安心。

明日はライブラリで話した先生とコーヒーに行くことになっている。先生の書籍をできるだけ読んでいこうと思ったけどピザ食べたら眠くなったのでイントロだけで断念……。

コロンバス旅行記6:揚げ物編

今日は授業の関係でライブラリが午前中で閉まってしまうとのことだった。ビリー・アイルランドの資料はリファレンス管理の目的に限り(要するにそのまま複写して図などで使わない限り)所定のフォームを提出すれば好きなだけ撮影できる。オッパーの資料から良さげなのを見繕ってスマホで撮影して撤収。

昼食探索。看板の一部が脱落しているのか「フーメン」とカタカナで書かれた店を発見。店頭のメニューを見ると、しかしラーメンはお休み中らしかった。張り出されたメニューの中に"TAKOYAKI"の文字を発見。コロンバスのたこ焼き!入ってみる。

基本的にはタコライスみたいなサラダ飯的なものをサブウェイ方式で売ってる店のようだった。タコヤキ頼むだけなら難易度高くなさそうだ。カウンターのメニューには見当たらなかったので聞いてみる。Do you have TAKOYAKI? 店員さんが奥に確認しに行く。なんかよくわからんがあるらしい。お金払って待つ。たこ焼きを作ってる気配が全然ない。サラダとフライヤーをいじり続けている。もしかして俺は何かミスったのだろうか……と思ってたらフライヤーから丸いものが5つ出てきて、ソースと鰹節と「メイヨア」っぽい何かがかけられて出てきた。銀だこっぽいタイプらしい。中は結構ちゃんとした半生の生地でたこ焼きしており、マヨと思われたソースはかなり辛くて、ビールがあったら延々食べるだろうなという感じで美味しかった。

早めに帰って持ち帰った資料を見る。どうやらオッパーは飛び抜けて几帳面で、責任感が強く、人格ができている人物であるようだ。オハイオ州マディソンで生まれて14歳まで学校に通うも中退、地元新聞の印刷工の手伝いをする。中退したのは何かしらの身体的障害を持っていた母親の負担を軽減するためであったらしい。仕事が空いた時間にカートゥーンを描いて雑誌に投稿し小銭を稼いでいた。元々絵は好きだったらしい。その後ニューヨークでカートゥーニストとして一旗揚げようとするも上手く行かず、ブロードウェイ近くの繊維関連の店で働いた。値札とかの挿絵を描いたりもしていたようだ。この頃にほんの少しだけアート関連の教育を受けたようだ。やがてデザイナーの友人ができて、そこからキャリアが本格的に動き出す、といった具合らしい。てっきりブルジョワの生まれかと思っていたが、父親はオーストリアから商売をするためにアメリカに移民してきたらしく、ということは元々金持ちというわけではなかった(金持ちなら母親の世話は他の人に任せられたはず)はずだ。1899年に新聞社に移ってから目の病気で引退する1932年まで毎日カートゥーンを描いていたという話も合わせて、ちょっと清廉潔白すぎて怖くなってくる。

同時代のカートゥーニストたちは、たとえば14歳の娘と結婚した挙げ句その娘の金遣いの荒さから離婚したマッケイとか、盗賊に取材に行って手に入れた拳銃にテンション上がっちゃってマンションの自室でぶっ放して大家に追い出されたバド・フィッシャーとか、人間的弱さを示すエピソードのひとつやふたつあるものだが、オッパーはそれが見つからない。見つからないこと自体が彼の歪みなのかもしれないが。

絵について専門的な教育はほぼ受けていないので、雑誌の仕事だとミスも結構あったようだ。とうもろこしを茎のてっぺんに生やしてしまったときは読者からめちゃくちゃツッコまれたらしい。

左翼系の雑誌に乗っていたオッパーの評論を発見。あまりにもイデオロギー批評的で鼻白むが、オッパーの風刺画が読者にもたらす力とその風刺画の攻撃対象が社会にもたらす力とをともに「影響力」influenceと表現していて興味深かった。今風に言えば、世の中には良いインフルエンサーと悪いインフルエンサーがいて、オッパーは前者、トラストは後者ということ。オッパーは労働者に教育的(というのはつまり革命に向かわせるということだが)な影響力を発揮する、彼のような影響力のお陰でいまや世の中がウォール街のギャンブラーどもに支配されていることに人民は気づき始めているのだ、時は近い!ジャーン!みたいな文章だった。

今日見た資料の限りでは、多くの場合オッパーの代表作は「ハッピー・フーリガン」というよりは「ウィリー・アンド・パパ」というマッキンリーとトラストを風刺した政治カートゥーンということになっていた。コミック・ストリップの方が金は稼いでるけど本当に偉大なのは……というような話の運びがしばしば見られた。政治風刺家としてのオッパー像をいかにコミックス作家としてのオッパーへと折り返すことができるのかがおそらくは重要である。こんなこと書いてて誰かにネタを盗られたりしないだろうか。しないか。

ケンタッキーリベンジ!再びUberEatsを頼む。今回は非常にスムースに届いた。しかし肝心のグレービーが入っておらず、グレービーのかかったマッシュポテトだけが入っていた。グレービーとグレービーポテトを同時に頼むやつなんていないだろと思われたのだろうか。つくづくグレービーに縁がない。昨日買ったデカいバドワイザーと一緒にいただく。日本のKFCより衣がクリスプしている。というかなんで日本のKFCの衣ってあんなにグジュってるの。まぁアレはアレで好きだけど。

知らなかったけど土日のあいだにコロンバスでは3人が撃たれる事件があったり麻薬や銃を取引する業者が30人くらい一気に逮捕されたりしていたらしい。それと関係あるのか知らんけど今日はキャンパスで警官の姿をよく見かけた。急に怖くなってきた。

コロンバス旅行記5:お洗濯編

起きてタイ人ルームメイトとちょっと話す。大学に行くバス停を知ってるかと訊かれる。俺的には歩ける距離だから歩くよと言いたいのだがなかなか伝わらない。最終的に"Yeah, but I love walking"でそーなのかー的な感じに着地。実際歩くのは好きだ。

ライブラリへ。オッパーの伝記ファイルに手をつける。スーザンさんが前に俺とアウトコールトの話をしたのを覚えていて気を利かせてくれたのか、アウトコールトのファイルも一緒に入っていた。あわせてダンボール箱の四分の三くらい。まぁなんとかなるやろ。いろいろ読んでるとオッパーという人はハッピーフーリガンよりもまずマッキンリーとルーズベルトの風刺漫画の人として通っていたことがわかる。追悼記事にはハッピーの方が人気は集めたけど本領は風刺だよね的なことが書かれていた。ちなみにこの記事(1938年)では"comic"と"cartoon"がだいたい現代と同じような意味で区別されていた。カートゥーンの方が位が高いという認識がうかがえる。

ライブラリの昼休憩中にマクドナルドに行ってみる。事前に米国マックでの注文やりとりをググって予習済みだ。ナンバー何々のコンボとミディアムのコークをプリーズするぞ!と意気込んで入り、その通りにしたら店員にドリンクバーを指さされた。コークとかではなくそもそもドリンクはどれでも飲み放題らしい。アチャー。というかよく見たらレジより手前にでかいタッチパネルがあって、カウンターで直接やり取りしなくても注文できるようになっていた。なんと親切な。出てきたビッグマックセットは大きさも量も日本と大して変わらず、ただ値段が(円安でなくとも)ちょっと高いだけだった。

大学構内を散歩。まずとにかくでかい。芝生がめちゃくちゃ広い。工学部のものらしい建物にはでかい煙突が二本立ってて煙がモクモク出ていた。何よりアメフトのスタジアムが目立つ。駐車場も含めて普通に日本の野球ドームくらいあるんじゃないか。これが大学の一部って。もっと目立たない数学部棟は、看板の"MATHEMATICS"のMが全部消されて ATHE ATICSになっていて、なんかめっちゃ無神論者な集団みたいになっていてウケた。

帰宅して洗濯することにする。そもそも洗濯機を見つけるのに苦労した。アメリカじゃ地下にあるんすね。というか洗濯物を外に干しちゃいけないの知らなかった。景観の問題らしい。初期コミックスやアイズナーの作品とかで洗濯物が大量に干されている様子がよく描かれるが、アレって一種の堕落みたいなニュアンスがあったのだろうか。地下室はブレイキングバッドで見た雰囲気だった。こんな空間がだいたいの家にあるなんて信じられん。そりゃメスも作るわいな。アメリカ式の洗濯機と乾燥機はすべてをツマミで操作するようでなんだかよくわからんかったがググったらなんとかなった。ググれなかった時代の旅行者ってマジでやばそう。

洗濯機を回しながら一階の談話室でぼんやりしてたら見たことのない顔が入ってきた。Airbnbで最初に俺とやりとりしたフィンだ。ジーンズと指先が白いパテか何かで覆われていた。どうやらこのシェアハウスの管理は彼がしているらしかった。「オハイオ。日本のグッドモーニングだ」どういう意味だろう、地元のスラングかな……と思ってたら「オハヨウ」というダジャレだった。いいね。その後俺の隣に座って三島由紀夫の動画を流し始めた。「こいつが言ってるハガクレって何?」「江戸時代の本で、侍の精神について書かれてるらしいよ」「へえ」フィンは死に関する哲学に興味があるらしかった。まぁ会話の目的が俺に話しかける事にあったのは明らかで、しかしその優しさが嬉しかった。

エスト発生!グローサリーで酒を買え!別に特別飲みたいわけではなかったけど、旅行者が酒を買うとどうなるのか知りたかった。redditの旅行関連のサブレでたまにパスポート見せても売ってもらえなかった話(日本でもあるらしい)を目にしていたので若干不安。適当にバドワイザーを取って自動レジに並ぶ。スキャンすると「係員が参ります」(意訳)の表示。係員参る。「ID見せてください」「パスポート、OK?」「もちろん」レジに俺の誕生日が入力される。オーライ。あっさり買えた。ちなみにオハイオは日曜午前中は酒を売り買いしてはいけないらしい。

コロンバス旅行記4:バス怖い編

日曜日。朝起きたら雷雨だったが、2時間くらいで過ぎ去っていった。

今日もライブラリは閉まっている。今日こそはコミックショップに行きたい。コロンバスはダウンタウンのあたりを運行する無料のバスがあるのでそれで移動しよう……と思ったらコロナ流行のせいで廃止になっていたことを知る。そんなー。普通のバスは動いているようだが、ここまで全部クレジットで買い物していたせいで小銭がない。ただでさえ初バスなのに車内で札を崩して支払いなんて、ちょっと難易度高い感じがする。でも一番近いコミックショップでも徒歩で片道1時間かかる。Googleは電動キックボードが近くに乗り捨ててあるからそれを使ったらどうかと提案してくるが……。デイビッドは出かけてるぽいので自転車借りるには時間がかかりそうだ。

まぁしかし昨日一日中引きこもっていたせいで身体がガタガタだし、コミックショップは北の方にあるからコロンバスの中でも治安も良さそうだ。ちょっと歩くのもいいだろう。気温もいい感じだし徒歩。

住んでる場所の隣のブロックに入ったらなんか急に草ボーボーの空き家が増えて、"BEWARE of CRIME"の看板が出迎えてくれる。ヒエ~。やや早足に通過。通り抜けるとちょうどオールド・ノース・コロンバスの入口の門が見えた。しばらく歩くとデイビッドに連れていってもらったグローサリーに出くわす。ここにあったんだな。今後は徒歩で来れるだろう。"BEWARE of CRIME"だけど。

High N Streetをずんずん歩く。クリントンヴィルという地域に入る。道沿いに協会が多い。でかいウィメンズクラブの建物がある。カフェや雑貨屋、ホビーショップなどが並び、たまに"No Hate Space"みたいな表示が目に入る。リベラルな地域ということか、それとも保守的だからこそこういう場所が必要ということなのか。

歩き続けると喉が渇いてくるが日本のような自販機は全くない。カフェに入るって感じでもない。途中でウェンディーズを見かけたがなんか混んでたのでやめる。むしろなんで日本って多少田舎であってもあんなに自販機があって中身が入っているんだろうか。

コミックショップThe Laughing Ogreに到着。Yelpによるとコロンバス近辺では一番評判が良いらしい。エントランスに入るとすぐにイチオシ棚みたいなのがあって、グラフィックノベルで埋め尽くされている。アルバムやマンガのあるセクションとリーフのセクションがきっちり分けられていて、ところどころにフィギュアのショーケース。あと子供向けゾーン。レジは壁際ではなく店のど真ん中にあって一望監視みたいな感じ。俺が入ったときはたまたま店員が他の客に対応していたので俺はヌッと入ってきてそのままだったが、あとから来た客に対してはドアベルが鳴ると同時に"Hello, can I help you?"みたいな感じで近寄ってくる。英語喋らずに済んで安心したような、練習してきた"It's good. Just looking. Thank you "が言えなくてがっかりするような。グラフィックノベル棚にあったSkippyのコレクションやクレイジーキャットに目を引かれるがデカいし高いのでとりあえずやめておく。適当に目についたやつを買う。レジの姉ちゃんに「チップとかってどうしたらええんかな」みたいなことを訊いたら「別にいらないよ」とのことだった。よく考えたら別に何かサービスしてもらったわけでもないしそりゃそうだ。

帰りにグローサリーで飲み物をしこたま買う。モンエナが2.75ドルくらいしていたので高くねと思ったら日本より缶がデカかった。なるほどこれを一日に何本も飲んだらそりゃ中毒にもなるわな。面白そうなので一本買う。"Daily Milk"と"Non-Daily Milk"とで別の棚が作られていたけど、ノンデイリーのミルクってなんなんだろう。とりあえず冷蔵されないものらしいが……。シリアルに使うのはデイリーの方なのでデイリーを買う。

炭酸が飲みたい!炭酸飲料の棚は巨大で、基本的に六本くらいのセットになっている。どんだけ飲むねん。もちろんバラ売りもある。

初単独有人レジ。レジにはベルトコンベアがあって、カゴから出した商品をそこに並べる。自分のぶんを並べ終わったら仕切りの板を置いて次の人に回す。おもろいシステムだ。前の人がレジ打ちに何か聞かれて"Actually, yes."と答えている。何を聞かれたのか聞き取れなかった。何がactuallyなんだ?ドキドキ。いよいよ自分の番が回ってきた。件の質問は「レシートいりますか」だった。何故か顔を見合わせて聞くと聞き取れるのだった。なーんだ。しっかしactuallyのニュアンスがわからん。

帰宅すると別の部屋に住んでいるタイ人の研究者が料理を作っているいい匂いがした。ブラウニーがたくさん余っていた。「一つもらっていい?」と聞く勇気はなかった。

戦利品を読む。G. Davis CathcartのOne Eight Hundred Ghostsという短めのグラフィックノベル。完全に表紙買いだったが、読んでみると冒頭でいきなりラウシェンバーグやメアリー・ボーンが出てきて、アメリカ現代美術の指導教員を持つ身としては何か運命めいたものを感じた。1980年にいる主人公たちが2年後にタイムトラベルして、まだ公開されていていないマイケル・ジャクソンの「スリラー」の音源を盗んで自分たちで発表しようとする話。すげえ。しかしマイケルの曲って仮にマイケルのパフォーマンス無しでも売れたのだろうか。実はコンセプチュアルな話なのかもしれない。

夕方になると例になって強烈に眠くなってきた。1時間くらい仮眠しようと横になったら隣人が大音量でテレビを見始めたので耳栓を突っ込む。すると眠れすぎてしまい、起きたら深夜3時というわけです。なんか変な時差ボケの仕方してるな。

コロンバス旅行記3:時差ボケチキン編

27時間くらいぶっ通しで寝てしまった。よく考えたら飛行機のせいで往路は24時間以上起き続けてたし、そこから3時間くらいの睡眠でライブラリに行ったのだった。俺はそういうことができるタフな人間ではない。ミートボールの残りに「メイヨア」をかけて持参したサトウのごはんと一緒にかっこむ。

今日は特にやることないのでコミックショップでも覗こうかと思ったが一番近いところでも6マイルくらいある。デイビッドに自転車借りればいいのだろうが、昨日大学まで歩いた話をしたときに「こりゃ貴方に自転車借りる必要はないだろうな」みたいなことを言ってから27時間しか経ってないしなんか小っ恥ずかしい。それに土曜日は治安悪くなるとのことだったので今日は部屋で大人しくしていることに。

本読みしてたが14時位になると急激に眠くなった。日本時間だと午前3時くらいで、いつも就寝している時間だ。なるほどこれが時差ボケってやつか。目も手も動かなくなったので大人しく寝る。

KFCのグレービーをナメナメする夢を叶える時間だ!UberEatsでチキンとグレービーとグレービーのかかったマッシュポテトを注文。しかしなぜか1回目の注文がキャンセルされる。店を替えて再度注文すると今度は届かなかったのに配達完了通知が来る。ドライバーに連絡しなければならない。まだ人に文句言えるほど英語に自信ないよ~。でもやらなきゃいけないので意を決して電話。つながらず。アプリが自動で返金してくる。なんなんだよもう。そうこうしているうちにKFC閉店時間。諦めてバッファロー・ワイルド・ウイングを注文。これも気になっていた。食べた感じなんか多分韓国のチキンってコレをやりたかったんだろうなと思った。

現在深夜1時。外が騒がしくなってきた。土曜は騒がしくなるというのは本当らしい。KFCが届かなかったのも街が混乱していたからだろうか。そういえば友達にA24関連のアパレルがあったら買ってきてほしいと言われたのでいくつか店を見てみたがだいたいアメフト関連のものばかりで、胸に"Make Michigan Our Bitch Again"と書かれたシャツがあってビビった。